記事一覧

ナレッジベース

粉体に生じる問題を考察する:物理的、化学的、微生物的安定性

粉体がどのようなものであるか、多くの人は直感的に理解しています。粉体はどこにでも存在していて、私たちは日常的に粉体と接しているからです。しかし、香辛料、原料、化粧品、医薬品の賦形剤、原薬など、粉体には様々なカテゴリーがあって、具体的に課題を特定しそれを解決するかとなると、一筋縄ではいきません。

図1
結晶構造は、規則的に配列された分子パターンを持っています。

しかし、ほとんどの粉体は分子構造によって分類することができます:非結晶質、結晶質、またはその組み合わせです。結晶質と非結質の比率およびその相互作用は、粉体のほとんどすべての特性に影響を与えます。

図2
粉体の構造上の違いを肉眼で確認できることもある。

さらに、粒子径は粉体の特性(およびその特性に関わる共通の問題)に大きな影響を与えます。粉体の粒子が互いに接触するあらゆる場所で、粉体固結の第一段階である架橋が始まります。粒子径が小さければ小さいほど架橋の可能性は高くなり、粘着、団塊、そしてさらなる問題につながります。結晶性粉体は特に厄介で、例えば水分の付着は、その規則正しい構造ゆえに(ある時点までは)粉体構造の表面にしか起こりません。

図3
粉体固着の5つの段階。流動性や粘着の問題や固結はプロセスのごく初期段階に始まる。

研究によると、粒子径の異なる2つの結晶性粉末を混ぜると、個々の粉末が持つ水分活性よりも低い水分活性で、混合物が潮解(固体から液体への変化)することがあります。

非晶質の粉体は、隙間や不規則な形状を持つ傾向があり、水分が粒子に結合しやすくなっています。

水分含量、水分活性、粉体等温線

水分に関わる測定には2つの重要な項目があります。水分含量と水分活性です。粉体の物理的、化学的、微生物的安定性の問題を抑制したいのであれば、水分含量と水分活性の両方を理解することが重要です。

食品業界や製薬業界では、ほとんどの人が水分含量についてはよく理解していますが、水分活性については初めて聞くという人もいるかもしれません。水分含量は水の量を測定するのに対し、水分活性は水が持つエネルギーを測定します。この2つのパラメータは全く別の方法で測定されます。

図4

水分含量は全体重量に対する比率で測定されます。基本的には、重量を基準として、試料の中で水分が占める割合を示します。

水分含量は一般的な方法ですが、特に正確というわけではありません。そのため、問題を特定したり解決したりすることが難しくなります。特に粉体の場合、水分含量だけでは全体像を把握することはできません。

水分活性を調べるには、装置で蒸気圧を測定します。水分活性は、試料が放出する平衡湿度と考えると分かりやすいです。

水分活性はしばしば 「水の利用可能性 」と誤って定義されます。しかしこれは正しくありません。水分活性は熱力学的原理であり、水のエネルギーです。そのエネルギーは化学反応やテクスチャの変化、その他の反応に使われるため、これを知っておくことは重要です。

水分活性と水分含量の関係をグラフ化したものを等温線と呼びます。正しく用いれば、等温線は多くの貴重な情報を提供してくれます。

  • テクスチャや構造の変化が始まる水分活性値を明らかにする(DDI等温線)
  • 製品が水分をより速く吸収し始めるポイントを示す
  • 分子構造(非晶質または結晶質)を特定する
  • 特定の変化や反応にかかる時間や、それらが起こる速さを判定する(DVS等温線)

物理的安定性を左右する主な要因

粉体の物理的安定性を理解するためには、考慮すべき3つの主要な要因があります。水分、温度、時間です。

水分

水分は物理的安定性に大きな影響を与えます。水は溶媒としても反応物としても機能し、化学反応を緩和することさえあります。一般的には水分が多いほど反応が速く進行する傾向がありますが、等温線は特定のケースごとの情報を提供します。

図5
DDI等温線は粉末の物理的安定性を分析する際に重要です。他の等温線のスタイルは、このグラフに見られるような臨界点を示すのに十分な詳細さを持っていないことが多いです。
温度

温度の影響は水の影響と似ています:温度が上昇すると、変化はより速く起こります(上図参照)。温度を上げるということは、システムにエネルギーを加えるということであり、水分活性が低くても、より多くの物理的変化を可能にします。

時間

十分な時間が与えられれば、どんなプロセスも完了するでしょう。一部のプロセスは非常に遅く進行するため、人間の感覚では気づきにくいかもしれません。例えば、非常に古いガラス窓のゆがみなどですが、温度や湿度などの要因が制御されている場合でも、これらのプロセスは依然として発生します。

物理的安定性の事例研究:スパイスミックスの固結

水分活性が物質間の水分の移動を促進することは知られています。しかし水はどの程度の速さで移動するのでしょうか?また、どのような方程式やモデルを使用すれば水の移動は予測できるのでしょうか?そして、その予測はどの程度正確なのでしょうか。

METER Groupの研究開発部門は、上記の質問に対する回答を示すために、以下の内容の研究を6つの異なるスパイスブレンドに対して実施しました。

プロセスの概要:

  1. 各成分の等温線を作成
  2. 各成分を既知の重量比で混合(下表参照)
  3. 等温線、数式、係数を用いて、各ブレンドの最終的な水分活性値を予測
  4. 平衡後の各スパイスブレンドの水分活性値を測定
  5. 予測値と実測値を比較
図6
研究の結果、最終水分活性の予測精度は高かった。

結果:

  • コーンスターチとオニオンソルトの予測は、最終的に測定された水分活性に非常に近いものだった。

*両成分とも粒子が微細で、これは粒子同士の接触が増えて平衡が速まる傾向があることを意味する。

  • 他のスパイスブレンドに対する予測も非常に正確だった。
  • 最も予測が正確でなかったのは、セージ、クミン、オレガノのブレンドだった。それでも最終的に測定された水分活性値よりも0.05低かったに過ぎない。
図7
セージ、クミン、オレガノブレンドの混合等温線モデル

この事例研究で説明されているプロセスは全ての食品科学者、特に新製品の配合を迅速に行う必要がある食品科学者にとって役立つものです。このモデル、ツール、および方程式を用いれば、スパイスを混合する前に、混合後のスパイスブレンドの特性ついて予測することができます。

等温線のライブラリーを作るには最初は時間がかかるかもしれません。しかし、ひとたびライブラリーを作り上げれば、配合担当者はレシピの調整、最終的な保存可能期間の予測、平衡水分活性値の予測、包装の決定などを、物理的な研究を行うことなく机上で自由に行うことができます。

化学的安定性を左右する主な要因

製造業者は水分活性が化学反応速度にどのように影響するのか、そしてどの反応が製品の保存可能期間を終了させるのかについて認識しておく必要があります。化学的な安定性を十分に理解しないと、製品の利点を実際よりも過大に告げてしまうことになりかねません。

図8
この図は脂質の酸化や褐変などの化学反応が最も起こりやすい範囲を示している。

化学反応の速度を追跡することは一筋縄ではいきませんが、可能です。保存可能期間が限界に達したかどうかの判断は、しばしば製造業者によってなされます。その瞬間を特定するには、上記の事例研究で言及された保存可能期間予測に関する情報が必要です。

化学的安定性の事例研究:ビタミンCの分解

栄養補助食品の製造業者は、理想的な保存条件をどう決定すればいいのでしょうか。どの程度の速さで特定の成分が劣化し、どの時点で製品ラベルに表示された情報と一致しなくなるのでしょうか。

METER Groupの研究開発部門が実施した研究は、これらの疑問に答えるのに役立ちます。この研究はビタミンC(アスコルビン酸)を対象に行われましたが、その原理と手法は、時間の経過によって分解したり反応したりする可能性のあるあらゆる物質に適用することができます。

研究では、温度と水分活性が劣化速度にどのような影響を与えるかを理解するために、アスコルビン酸を2つの異なる水分活性と3つの異なる温度にさらし、UV-Vis分光法を用いて劣化を追跡して劣化速度を算出しました。

最初に、目標となる温度(30℃、40℃、50℃)と水分活性(0.76awと0.948aw)を設定しました。そして、保存可能期間が終了すると考えらえる時点(この研究ではビタミンCが最初の量の75%に達した時点)を設定しました。そして、必要な情報を専用ソフトウェア「Moisture Analysis Toolkit」に入力し、保存可能期間の加速試験を実施したところ、以下のような結果が得られました:

図9
「Moisture Analysis Toolkit」ソフトウェアによる保存可能期間の加速試験の結果。30℃、0.8awの状態では、予測されるビタミンCの保存可能期間は65.528日。

微生物的安定性を左右する主な要因

水分活性は微生物の生育を制御する優れた方法です。水分活性が0.6aw未満では、微生物は生育することができません。

この事実は、多くの製造業者に誤った安心感を与えています。製品の水分活性が低ければ、微生物による汚染を心配する必要はないと考えているのです。これは危険な認識であり、ピーナッツバターや小麦粉、乳児用粉ミルクなどの食品で多くのリコールや食中毒を引き起こしてきました。

水分活性は微生物の生育を防ぐことはできますが、死滅させることはできません。水分活性が低い状況下では、微生物は休眠しているに過ぎません。例えば、クッキー生地に小麦粉を混ぜるなどして食品の水分活性が高まれば、微生物は再び生育を開始し、食品の安全性を脅かすのです。

水分活性が低い製品は安全かもしれませんが、必ずしも無菌ではありません。

微生物を抑制する手段や予防策は数多くありますが、依然として複雑で難易度の高い課題です。低水分食品の殺菌や低温殺菌に関する多くの研究が盛んに行われています。現時点での最も効果的な方法は、厳格な衛生管理です。厳格な衛生管理こそが汚染を防ぎ、微生物的安全性を確保するのす。

粉体についてさらに詳しく学ぶ

粉体の化学についてさらに詳しく学びたい場合は、ウェビナー『MASTERING MOISTURE IN POWDERS(粉体の水分を極める)』をご覧ください。このウェビナーでは、METER Group研究員のZachary CartwrightとMary Gallowayが粉体の流動性、固結、分子構造、等温線について詳しく解説しています。