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動的水蒸気吸着法(DVS)

動的水蒸気収着法(DVS)とは何か、なぜ必要か、どのように活用するのか?

食品や医薬品に含まれる水分は、食品や医薬品がどのように使われ、いつ劣化するかに影響を及ぼします。水分を無視して安全性を保つことはできません。ここでは、動的水蒸気収着法(DVS)がどのように役立つかを説明します。

動的水蒸気収着法(DVS)とは何か、なぜ必要か、どのように活用するのか?

水はどこにでもあるものです。自然界を研究したり、その中で材料を製造したりする人は、いずれは水分が物質に与える影響に気づくことになります。

具体的には、水分は、材料そのものか周囲材料かを問わず、製品や材料の使用方法と使用場所、劣化する時期、処理とコーティングの必要性、あるいは一から配合し直す必要があるかどうかを決定する重要な要素なのです。

水分を無視して安全性を保つことはできません。では、どのようにしてその影響を測定し、説明することができるのでしょうか。水分収着分析により測定と説明が可能になります。

動的水蒸気収着法(DVS)とは何か?

水蒸気収着分析の目的は、溶媒 (通常は水)が材料にどれほど吸着されるのか、あるいは材料からどれほど水分が放出(脱着)されるのか、またそれがどれほどの速さで起こるのかを知ることです。

これらを理解するには、試料を溶媒となる水蒸気の量(湿度)を制御・調整できる環境下に置き、試料の重量の変化を測定し、吸着、あるいは脱着した水蒸気の量を計算します。

動的水蒸気収着法(DVS)は、水蒸気収着を分析する一般的な方法の一つです。数十年前まではデシケーター(乾燥容器)を用いた手作業によるゆっくりとしたプロセスが蒸気吸着分析の主な方法でした。しかし、1991年にDaryl Williamsが開発したDVSは、有意義なデータを得るために必要だった膨大な時間と手作業を減らすことになりました。

DVSの仕組み

DVS装置にはいくつかの種類がありますが、そのほとんどは動作のメカニズムが似ています。

典型的なDVS装置は、温度制御されたチャンバー内に試料を入れ、加湿または乾燥した空気を用いてチャンバー内の相対湿度を設定した値に調整します。試料がチャンバーの相対湿度レベルと平衡になると(重量で想定)、その質量変化が記録されます。次に、このプロセスを相対湿度を上げ下げしながら繰り返し、さらに変化を記録します。必要なデータポイントが収集された後、一部のDVS装置ではそのデータを使って等温線が作成されます。

試料をチャンバーに挿入すると、動的水蒸気収着装置は自動的に水蒸気収着分析を行います。DVS技術以前は、同じデータを得るために厳密に温度制御された部屋に複数のデシケーター容器を準備し、試料をそれぞれのデシケーター容器に順番に入れて結果を記録していくという、数週間から数か月に及ぶ作業が必要でした。

動的水蒸気収着法が用いられる場面とその理由

市場における競争や規制の強化により、さまざまな業界の企業が、自社の製品が環境条件にどのように反応するかを研究する必要に迫られています。これが、発明以来30年以上にわたって動的蒸気収着法が広く採用されてきた理由でしょう。

現在、DVS分析は、新しい業界に広がり続けています。水蒸気収着分析では、次のような疑問や質問に答えることができます。

  • 最終製品であれ原料であれ、粉体はどのような条件で固結し、使用不可になるのか、あるいは見栄えが悪くなるのか。
  • どのような包装材が、輸送、天候、保管の悪条件から製品をどの程度保護するか?
  • 医薬品,栄養補助食品、サプリメントなどの有効成分が洗面所の薬箱のような湿度が変動する環境に置かれた場合,有効性をどれだけの期間維持できるのか?

その他、航空機に使用される複合材料、コンタクトレンズ、個人用衛生用品など、よりニッチな分野においても、湿度が製品に及ぼす影響をテストしています。

DVSの結果と分析、パート1:水蒸気収着反応速度

静的 (DVS)

動的水蒸気収着の結果は、しばしば2つの異なる方法で可視化されます。1つ目は、水蒸気収着反応速度と呼ばれるもので、タイミングが重要です。これは、チャンバー内の相対湿度と試料重量の時間的変化をグラフ化したものです。

別の言い方をすれば、収着反応速度は、試料が周囲の環境からどれだけ速く水を取り込み、あるいは放出するかを示すものです。これは、加速賞味期限分析など時間が重要な要素となる場合に知っておくと便利です。

DVSの結果と分析 その2:水蒸気収着等温線

水分含量(%)

水蒸気収着のデータを可視化するもう一つの方法は、試料の水分活性(相対湿度)のデータを一方の軸に、重量(水分含量を使うこともある)を他方の軸にしてグラフ化することです。

この等温線は、時間が試料に与える影響は重要視されませんが、相対湿度との関係で試料重量または水分含量がどのように変化するかを示します。

このタイプの高解像度等温線は、望まない食感の変化や品質の低下が起こる場所を正確に特定するのに役立ちます。これらはしばしば「臨界点」と呼ばれ、水分含量や重量の急激な上昇や下降として表れます。この情報は以下の例にもあるように、食品製造の多くの場面で非常に重要です。

  • 粉末などの乾燥製品では、固結を防ぐために製品を上限値以下に維持することが重要ですが、過度に乾燥させて重量を下げることで利益率を低下させないよう、適切な値を維持することも大切です。
  • ジャーキーなどの加工肉製品の場合、微生物の生育を抑制するために限界値を低く設定することが理想ですが、低く設定し過ぎると、しっとりとした食感が損なわれます。
  • フルーツバーのような高水分含量食品では、シネレシス(製品の収縮)を防ぐために、一定のレベルの水分活性が必要とされます。

吸着、脱着、ヒステリシス

水蒸気収着反応速度と等温線のいずれにおいても、吸着と脱着の違いには留意する必要があります。

吸着とは、湿度の高い環境から水分を引き込み、試料が水分と結合することです。脱着とは、試料が水分を乾燥した環境に放出することです。

この水分の取り込みと放出の方法と速度が同じという物質はほとんどありません。この吸着と脱着における方法と速度の違いをヒステリシスと呼びます。

水分含量、水分活性

ヒステリシスは重要な概念ですから覚えておいてください。物質の吸着・脱着は、サイクルを経るごとに次の吸着・脱着サイクルの結果に影響を及ぼします。その結果が積み重なってある転換点を超えてしまうと、その構造の変化は不可逆的となり、再び乾燥させるだけでは元に戻らなくなる可能性があるのです。

ヒステリシスは主に製品自体の状況を把握するために用いられますが、コーティングされた製品、保湿剤を含む製品、または新しい配合などの保水能力を評価するためにも用いることができます。

DVSの等温線解釈 - 試料

等温線の解釈は用途によって異なりますが、一つの方法を分析すれば他の方法も概念的に理解できるようになります。例として、スプレードライ粉乳の蒸気による相変化の分析を取り上げてみましょう。

保存期間の予測、撥水フィルムやコーティングの効果の判断のために等温線をどう分析するかについては、ウェビナー「Understanding Isotherms」の動画をご覧になるか、動画のスクリプトをお読みください。

等温線を分析して食感の変化を調べる最初のステップは、前述の臨界水分活性(食感に望ましくない変化が生じ始めるポイント)を見つけることです。

動的露点等温線法(DDI)による収着等温線

この収着等温線の二階微分を用いることで、曲線上のピークを特定することができます。このピークは、水分含量が最も速く上昇する水分活性に相関しています。

二階微分

この粉体の例では、水分活性が0.67awのときです。つまり、水分活性0.67aw、または相対湿度67%がこの粉体の重要な移行点であり、ここで食感が変化することを意味します。

水分活性が低いうちは、水と結合する吸着サイトが限られています。しかし、0.67awまで上がると、吸着サイトの数が増え、より多くの水分と結合できるようになります。さらに水分活性が高くなると、(この特定の製品では)重度の固結が生じ始めます。等温線は、これらのことが起こる正確な場所を示します。

粉体のDDI収着等温線

水蒸気収着と有機蒸気収着の比較

動的水蒸気収着装置の大部分は水の収着特性を研究するために設計されていますが、一部の装置では、試料が有機蒸気とどのように相互作用するかを分析することもできます。

このプロセスの目的と原理は同じで、試料がどのように蒸気を吸着・脱着するのかを知ることです。これらの装置では、試料チャンバーは水蒸気ではなく有機蒸気で満たされ、所定の湿度が設定されます。

有機蒸気を用いたDVSは、化学プロセス制御の方法を開発する材料科学者に最もよく利用されています。また製薬業界では、安定した生物学的利用能のある有効成分の開発にも有用であることがわかっています。

DVS装置

DVS装置

DVS装置は、試料の重量を精密天秤で測定し、試料を加湿または乾燥した空気にさらすことができなければなりません。しかし、この条件を満たしていたとしても、そのサイズや形状、性能は装置により大きく異なります。DVS 装置を購入する際には、以下の点を考慮してください。

  • 装置の大きさ:卓上型装置の中には約30立方センチメートルと非常にコンパクトなものもありますがマルチステーション型装置には大きな実験台を埋め尽くすものや、独立型キャビネットと同じ大きさのものまであります。
  • 測定時間:等温線の作成に数日かかる装置もあれば数週間かかる装置もあります。どれだけの処理能力が必要かについては購入前によく検討してください。
  • データ分解能:等温線の解像度が十分でないと臨界遷移点をピンポイントで特定することはできません。必要なのは低解像度の吸着反応速度でしょうか。それとも高解像度の等温線でしょうか?
  • 試料の大きさ:(DVS) 装置の中には10mgの試料を正確に分析できるものもあります。また、正確な分析のために、より多くの試料を必要とするものもあります。

その他の水分吸脱着分析方法

試料をデシケーター内で平衡化させて行う従来の蒸気収着分析は、手間と設備がかかるにもかかわらず一部の研究所や大学ではまだ実施されています。

この方法を選択する場合、いくつかの恒温槽と飽和食塩水、そしてそれらを長期間保管するためのスペースが必要となります。また研究室の技術者は、材料を準備してテストを開始した後で目的のデータセットが得られるまで、チャンバーから試料を取り出し、定期的に重量を測定し、質量の変化を記録することが必要になります。

この方法は時間と継続した努力が必要であるにもかかわらず、他の方法のような詳細な結果は得られない可能性があります。

もう一つの選択肢は、DVS法の改良版として比較的最近開発され、まだそれほど知られていない動的露点等温線法(DDI法)です。DVS装置が気候室法、すなわち試料が特定の湿度に平衡化したことを重量で判断する方法に従っているのに対し、DDI法は試料の水分活性で平衡を判断しています。

DDI装置は、加湿または乾燥した空気を使用して試料の相対湿度を設定した間隔(0.01awまたは1%RH単位)で変化させていき、チャンバーが平衡に達した時点での試料の水分活性と重量の両方を記録します。このプロセスを数日かけて何度も繰り返すことで、DDI装置はDVS装置の5から10ポイントに比べて100から150以上も多いデータポイントから成る等温線を作成することができます。こうして遷移点をピンポイントで明らかにすることにより、製品内部の実際の水分の動きを再現することができるのです。