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水分活性が微生物の生育を抑える仕組み

微生物が生育するためには水が必要です。水がなければ、微生物は休眠状態に入ります。でも、微生物にとって利用可能な水がどれほどあって、どんな微生物が生育するのかはどうしたら分かるのでしょうか。

それを明らかにしたのがウィリアム・ジェームズ・スコットです。彼は1953年、食品中の微生物の生育に影響を与えるのは水分活性であって、多くの人が考えるような水分含量(含水率)ではないことを示しました。そしてスコットはその4年後、微生物が生育するために必要な最低限の水分活性(生育最低水分活性)という概念を確立しました。現在、この水分活性という概念は、製造する食品が微生物生育の影響を受けやすいかどうかを判断するために、食品メーカーで日常的に使われています。

A small pile of dry pet food
A small pile of dry pet food

水分活性を管理し、微生物の生育を抑える

すべての生物と同様に、微生物は食物中の利用可能な水分に依存して成長します。そして、細胞膜から細胞内に水を取り込みます。この水の移動は、細胞外の水分活性の高い環境から細胞内の水分活性の低い環境へ水が移動するという水分活性勾配の仕組みによって起こります。ところが、細胞外の水分活性がある限度まで低くなると浸透圧ストレスが発生し、細胞は水分を取り込めなくなって休眠状態に入ります。このとき、微生物は死滅するのではなく、感染を引き起こすほどの増殖ができなくなるだけです。また、浸透圧ストレスへの反応は微生物によって異なります。そのため、生育に必要な最低限の水分活性も異なります。カビや酵母の中には、非常に低い水分活性に耐えられるように適応したものがあります。表1は、一般的な微生物の成長限界となる水分活性を示したものです。

表1. 微生物の成育最低水分活性
水分
活性値
(aw)
細菌 カビ 酵母 代表的な食品
0.97 ボツリヌス菌 E型
(Clostridium botulinum E )
シュードモナス・フルオレッセンス
(Pseudomonas fluorescens)
生肉、果物、野菜、果物や野菜の缶詰
0.95 大腸菌
ウェルシュ菌
(Clostridium perfringens)
サルモネラ属菌
(Salmonella spp.)
コレラ菌
(Vibrio cholerae)
減塩ベーコン、調理したソーセージ、点鼻薬、目薬
0.94 ボツリヌス菌 A型、B型
(Clostridium botulinum A, B)
腸炎ビブリオ菌
(Vibrio parahaemolyticus)
糸状菌
(Stachybotrys atra)
0.93 セレウス菌
(Bacillus cereus
糸状菌
(Rhizopus nigricans)
一部のチーズ、生肉(ハム)、ベーカリー製品、
エバミルク、外用ローション
0.92 リステリア菌
(Listeria monocytogenes)
0.91 枯草菌
(Bacillus subtilis)
0.90 嫌気性 黄色ブドウ球菌
(Staphylococcus aureus)
バラ色カビ病菌
(Trichothecium roseum)
出芽酵母
(Saccharomyces cerevisiae)
0.88 カンジダ菌(Candida)
0.87 好気性 黄色ブドウ球菌
(Staphylococcus aureus)
0.85 アスペルギルス・クラバタス
(Aspergillus clavatus)
加糖練乳、熟成チーズ(チェダーチーズ)、
発酵させたソーセージ(サラミ)。
乾燥肉(ジャーキー)、ベーコン、ほとんどの濃縮果汁、
チョコレートシロップ、フルーツケーキ、フォンダン、
咳止めシロップ、経口鎮痛剤懸濁液
0.84 耐熱性カビ
(Byssochlamys nivea)
0.83 ペニシリウム属菌
(Penicillium expansum、Penicillium islandicum,
Penicillium viridicatum )
デハリモセス・ハンセニー
(Deharymoces hansenii)
0.82 アスペルギルス属菌
(Aspergillus fumigatus、Aspergillus parasiticus)
0.81 ペニシリウム属菌
(Penicillium、Penicillium cyclopium、Penicillium patulum)
0.80 サッカロマイセス・バイリ
(Saccharomyces bailii)
0.79 ペニシリウム・マルテンシ
(Penicillium martensii)
0.78 アスペルギルス・フラバス
(Aspergillus flavus)
ジャム、マーマレード、マジパン、グラッセフルーツ、
糖蜜、ドライイチジク、魚の塩漬け
0.77 アスペルギルス属菌
(Aspergillus niger、Aspergillus ochraceous)
0.75 アスペルギルス属菌
(Aspergillus restrictus、Aspergillus candidus)
0.71 ユーロティウム・シェヴァリエリ
(Eurotium chevalieri)
0.70 ユーロティウム・アムステロダミ
(Eurotium amstelodami)
0.62 サッカロマイセス・ローキシィ
(Saccharomyces rouxii)
ドライフルーツ、コーンシロップ、甘草、マシュマロ、
チューインガム、乾燥ペットフード
0.61 モナスカス・ビスポラス
(Monascus bisporus)
0.60 微生物生育なし
0.50 微生物生育なし キャラメル、タフィー、蜂蜜、麺類、外用軟膏
0.40 微生物生育なし 全卵粉、ココア、液体咳止め
0.30 微生物生育なし クラッカー、でんぷん系スナック、ケーキミックス、ビタミン剤、座薬
0.20 微生物増殖なし ゆで菓子、粉ミルク、乳児用粉ミルク

水分活性とFDA、FSIS、FSMA

水分活性を測定すれば、その素材にどのような細菌、カビ、菌類が生育できるのかが分かります。そして、水分活性を下げることで、特定の微生物の生育を抑えることができます。また、水分活性を十分に低くすれば、微生物の生育を完全に阻止することも可能です。水分活性は微生物を死滅させるものではなく、微生物の成育を御えるために用いられるものであり、多くのHACCPプランに不可欠な要素です。このように、微生物の生育最低水分活性は科学的に確立された理論であり、米国食品医薬品局(FDA)や米国農務省食品安全局(FSIS)、日本を含むその他の国々の規制にも取り入れられています。

By reducing water activity in your product, you can rule out the growth of certain classes of microbial growth.
By reducing water activity in your product, you can rule out the growth of certain classes of microbial growth.

微生物が食品中で生育するかどうか、またその生育速度がどれほどかは、温度やpH、その他いくつかの要因が影響しますが、水分活性が最も重要な要因であることは否定できません。例えば、細菌の大部分は水分活性が0.91以下で、カビの大部分は水分活性が0.70以下では生育できません。水分活性が0.91より高い場合でも、pH、温度、製品包装などの生育制御要素と組み合わせれば、微生物の生育を抑えることができます。

さらに学ぶために――『水分活性102』をご覧ください。

水分活性が微生物の生育と関係することはもう常識です。でも、その知識を配合や仕様、製造、パッケージングに活用するにはどうしたらいいのでしょうか。この30分のウェビナーでは以下のことを学びます。

  • 水分活性と微生物の育成の関係について知っておくべきことは何か
  • 業種固有の生育最低水分活性の数値を知ることにより、製品仕様の決定にどう役立てていくか
  • 必要な水分活性数値を得るためにどのような配合技術(保湿剤、フィルム、コーティングなど)を用いるか
  • 課題克服のためにどのようなハードル技術を用いるか